2008. 12. 31  
今年もあと数分になりました。皆さん良いお年を。
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2008. 12. 26  
クリスマスも過ぎて、今年もあと残り少なくなりました。何だがあっという間だった気がします。
来年は良い年でありますように、祈ったりしてます。
2008. 12. 08  
故障したPCが修理を終えて、我が家に帰ってきました。急に画面とか大きくなった気がして、そわそわしてます。
2008. 12. 04  
■タイトル■
往復バルコニー

■あらすじ■
崎川真由(さきかわまゆ)は、三者面談で初めて将来を問われ、言葉を返すことができなかった。今まで流されるまま生きてきたので、自分で考えて決めるということがなかったのだった。やがて将来に対する不安は苦悩となり、真由を自殺へと追いやる。しかし葛藤を重ねていくうちに、家族や友達から助けられている自分に気づき踏みとどまる。

タイトル【往復バルコニー】
 十一月の冷たい風が、繊維を通して身体に突き刺さる。
 髪はばさばさとなびき、僅かかな温もりはあっという間に奪われていく。手すりも氷のようだった。
 でも今のわたしにはそんなこと関係ない。
 どうして自分で選ばなきゃいけないの? 将来ってなに?
 幾度となく繰り返してきたこの問い。それがわたしを苦しめ現実世界から、身も心も引き離そうとしてくる。
 十一階のバルコニーから下を見下ろす。
 地上の自転車も人も車も、小さくてちっぽけなオモチャのように見える。
 未来のことはわからないけど、これだけはわかる。
 ここから落ちれば間違いなく死ぬ。
 きっかけは三者面談だった。
 先生と進学について話して、それが終わりに近づき始めた頃。
『将来のこともよく考えて、最終的には自分で決めないさい』
 先生は特に表情を変えることなくわたしにそういった。お母さんも普通に頷いていた。
 でもわたしは、当たり前のように聞こえるこの言葉に愕然としていた。
 信じていた人に、突然見捨てられたような衝撃を受けた。
 進めべき道を自分で決める。わたしにとって初めての厳しい選択。それを突きつけられたからだ。
 将来とは先のこと見えないこと、想像し得ないわたしのこと。
 もちろん目標なんてない、考えたこともない。
 今までずっと、お父さんやお母さんに薦められるまま生きてきたから。
 けれどこれからは違う、自分で決めなければならない。
 わたしの歩むべき道を。
「真由、ごはんよ」
「えっ! ああ、うん」
 突然後ろからお母さんに声をかけられ、肩がビクッと震えると、今までの思いはふっとどこかに消えた。真由とはわたし崎川真由(さきかわまゆ)のことだ。
 お母さんはお父さんと職場結婚して以来、ずっと専業主婦を続けている。
 仕事で忙しいお父さんより、家にいる分わたしと過ごす時間は長い。だから一番わたしを理解してくれていると思っている。
「この頃よくバルコニーに、出たり入ったりしてるけど何してるの? 風邪引くわよ」
「う、うんちょっと景色見てただけだから……えっと気分転換みたいな感じ」
「そう」
 お母さんは少し、納得がいかないような顔をしてたが、何とかごまかせたようだ。
 それもそのはず、もう十年以上この3LDKのマンションに住んでいるのだから、いまさら景色なんてどうでもいい。ただ物思いに耽るために、リビングとバルコニーを往復しているだけだ。
 今日は逝けるかそれとも明日か、妄想じみた考えを繰り返している。
 わたしはバルコニーから、リビング兼ダイニングに向かった。
 今日のメニューはニラの卵焼きに、鯖の味噌煮。
「あ、今ちょうど鯖の味噌煮二人分しかないのよ。鮭焼いたのもあるんだけどどっちにする?」
「どっちでもいい」
「えっ、どっちでもいいって……もうじゃあお母さんが鮭食べるから、真由は鯖の味噌煮食べなさい」
 お母さんは少しあきれたように、そう言った。わたしは選ぶのが苦手なんだ。昔から何でも……。
 席について食事が始まった。お父さんはビールを飲みながら、時々テレビの野球中継を見ている。
 お母さんがちょっと、ムッとした顔をして箸を止めた。
「お父さんこぼしてるわよ、もうしょうがないわね。テレビにするか食事にするか、はっきりしないから」
「ん、ああ、すまん。食べるよ、食べる方に集中しますよ、ははっ」
 お父さんはごまかすように笑って、鯖の味噌煮に箸をつけた。すでに少し酔っているようだ。
 その後も何度かテレビの方をチラチラ見ていた。やがて野球中継が終わると、お父さんがわたしを見て口を開いた。
「そういえば三者面談終わったのか?」
「……っ」
 一瞬息を飲んだ。
「終わったわよねえ真由」
「う、うん」
 嫌っ! 嫌よ! どうして……。
「父さんの会社に入るなら、早稲田か慶応が有利だからな、その辺りどうだ?」
「それは……」
 どうしてそんなこと聞くの? いま一番気にしてる嫌なことなのに。
 お父さんが勤めている会社は都内にある電機メーカーで、よくわからないけど、株式も一部上場しているとか聞いたことがある。だからわたしもそれなりにならないと、困ると思っているのだろうか。
 わたしは会社が一流も二流も、それどころか大学のことさえも考えられない状態なのに。
「何だ、三者面談うけたのにまだ決めてないのか?」
 お父さんは少し不満げな顔をして詰め寄る。
 わたしがいつまでも、下を向いて黙っているとお母さんが
「お父さん就職なんてそんなの、まだまだ先のことでしょ。それにみんながお父さんの会社に入るって、決まってるわけじゃないのよ」
「でもなぁ就職するために、大学行くようなもんなんだからな。大事なことだぞこれは」
「お父さん今日は酔ってるからもうやめましょう」
「いやまだ大して酔ってないぞ」
 お父さんは真っ赤な顔をして主張する。
 でも誰が見たって酔っているようにしか見えなかった。
「大事な話だったらお酒なしでしましょうね。真由に無駄なプレッシャーかけちゃだめよ」
「プレッシャーか……わかった、わかったよ母さん。これ一杯でやめるよ。まあ焦ることもないか、何にしても最終的には真由次第なんだからな、はははっ」
 お父さんはお母さんに諭されるようにして話をやめた。そしてわたしに悪いと思ったのか、ぎこちなく笑っていた。
 お父さんもお母さんも、気を遣ってくれているのがわかる。わたしのことを、本当に考えてくれているのがわかる。
 なのにわたしは。
「ありがとう……」
 笑みを浮かべてそう言いった。でもわたしのありがとうという言葉は、明らかに偽善に満ちていた。
 ついさっきまで、死のうと思っていたのだから……。
 これはお父さんとお母さんに対する裏切りだ。
 いつもの食卓いつもの光景でも何かが違う。
 強いて言えばそれはわたしの存在だ。
 今こうして隠れて自己嫌悪しているわたし、それが本当のわたしなんだ。

 次の日、四時限目も終わり昼休みになった頃、わたしは親友の木原知子(きはらともこ)と教室で机をくっつけ、向かい合って昼食を食べていた。
 長い髪を後ろに束ねた知子は陸上部のエースで、いつも元気いっぱいだ。おまけに女であるわたしから見ても目鼻立ちのととのった、かなかりの美人でスタイルも抜群。当然男の子からの人気も高いけど、なぜか誰とも付き合おうとしない。本人曰く自分自身の恋愛には興味がないらしい。
 知子との出会いはすごく唐突だった。新学期に教室で一人ぼっちで食事していたら、いきなりやってきて「あたしも一人なのよ、まいっちゃうわよね。一緒に食べよ?」なんていって無理矢理机をくっつけてきたのが始まりだった。
 知子もよくわたしなんかと友達になってくれると思う。ただひたすら選択することから、逃げ続けるわたしなんかと……。
 今思えば知子と出会った頃はまだマシだった。最近は終始だらだらした感じで、夜は眠れなくて食欲もない。だからお母さんの作るお弁当を断って、コンビニで買った適当なものを食べている。
 何だか日に日に気力が失われていく気がする。
「それにしてもなんかすっごい小食ねぇ、マフィン一個とオレンジジュースだけって。それおやつじゃないの?」
 わたしの家、マンション、十一階のバルコニーから飛び降り自殺。
「あたしだったら、あとタマゴサンド一つとツナサンド一つはつけないと足りないわね」
 きっと身体にものすごい風圧を感じて、あっという間に落ちて即死なんだろう。
 それとも途中で気絶して、何もわからないまま死んでいくのだろうか。
「こんなんでよくもつわね。ちゃんと食べないと身体壊すわよ。あんたもともと細くて、ダイエットする必要なんかないんだから」
 でも駐輪場の屋根に当たったら、助かっちゃうかもしれない。
 どちらにしても、恐ろしい激痛を感じることは間違いないだろう。
「ちょっと真由? おーい生きてるかぁ?」
「……えっ、あっ」
 急に外の音が耳の中に響いた気がした。知子が目の前で手のひらを、左右に振っているのを見て我に返った。
「どしたのぼーっとして?」
「べ、別になんでもないよ」
「そう? でも何か心ここにあらずって感じだったわよ」
 知子のいう通りだった。わたしはたった今まで、親友の目の前で自殺について考えていたのだから。
「あんたまさかあたしに断りもなく、彼氏できちゃったんじゃないでしょうね?」
「えっ、そんなの違うわよ」
 いっそそんな悩みだったら、どんなにマシだろうか。
 知子はいかにも訝しんだ表情で、わたしの顔をのぞき込む。もちろんふざけ半分なんなだろうけど。
「ホントにぃ?」
「ほ、ほんとだってば」
「ふーん何だもう、おもしろくないわね」
 そうよ。わたしの考えていたことは、絶対におもしろいことなんかじゃない。
 あなたを裏切るようなことを、考えていたんだから……。
「あ、フルーツヨーグルトあるんだけど、これぐらい食べれるわよね。どっちにする? 二つはさすがにあたしも食べきれないからさぁ」
 選択を迫る知子。わたしはまたいつものように
「どっちでもいい」
「相変わらずはっきりしないわねぇ真由ちゃんは、じゃああたしはいちごで、あんたはマンゴーね」
 知子はわたしの優柔不断に、すっかりなれている。
 でもわたしは手渡されたヨーグルトのカップを見て、自分はダメな人間だなと改めて思った。
 食べながらちょっとだけ、知子に聞いてみることにする。
「あ、あのね……」
「ん、なに真由?」
 知子はプラスチック製のスプーンを止めて私を見た。
「知子は将来なりたいものってある?」
「将来? なりたいものぉ?」
「うん」
「そんなの今のところ別にないけどぉ、まあ取りあえずどっかの大学行って卒業できたら、会社にでも勤めるんじゃない」
「どっかの大学ってどこの?」
「そりゃ入れてくれそうなところに決まってるでしょ」
 あっけらかんとした口調で言い放つ知子。
 どうしてそんな風に言えるの? 不安とか心配はないの?
 そもそもわたしなんかと、性格が違うからなのかな。
 わたしはどちらかというと臆病で暗いと思う。でも知子はいつもはつらつとして明るい、その違いなのかな。
 じゃあこんなのってどうしょうもない。
 暗いわたしは落ち込んでいくしかないってことなんだろう。どこまでもどこまでも深くて暗いところへ。

 夜十一時ころベッドに入ったものの、まるで眠気が湧いてこない。
 枕元で携帯を開いてみると、もう午前二時を過ぎていた。
 原因はいつものことだ。
 わたしには将来の目標なんてない、このままじゃ大学だって受からないかもしれない。
 きっと他の人たちはもっと確りしていて、ちゃんと目的意識をもっているんだろう。
 あるいは知子のように細かいことを気にせず、たくましく生き抜いていける人なのか。
 わたしはそのどちらも持ち合わせていない。あるのは不安と心配、そして自己嫌悪だけだ。
 思えばいつも決断するということから、わたしは逃げ続けてきた。
『どっちでもいい』それが口癖だった。
 高校に入るときだって自分の意見を言わなかった。お母さんに言われるままに進んだ。
 でももう口癖は通用しない。自らの道の選択を問われたのだから。
 小さな子供じゃないんだし、今度は自分で決めなければならないんだ。
 このまま眠って朝になったら死んでいたらいいのに、そうすれば不安も心配もなくなるのに。
 無駄だとわかっていても、つい都合の良いことを考えてしまう。本当にダメな人間だ。
 どうにかして今の自分から逃げ出したい。
 でも今のところそれは死ぬ意外、不可能なことだろう。
 だからといって今の自分から、脱皮するのはさらに苦しい。
 そんなことができるのなら、最初から苦労しないのだ。
 どこにでもいる女子高生、何の特技もない女子高生、臆病で心配性で流されるまま生きてきた女子高生。それがわたしだ。
 ここまでわかりきっているのに、ここまで追い詰められているのに、何にも懸命になれない。
 どうしたらいいの? 誰か教えて……。

 翌日、わたしはいつも通りの時間に家を出た。
 だけど学校へは足が向かなかった。そのまま街に出てデパートのトイレで私服に着替えた。
 行く先は漫画喫茶。時間をつぶすにはもってこいだと思った。
 特に怪しまれることもなく受付をすませ、わたしはドリンクバーでアイスティーを手にして個室に入った。
 生まれて初めてのエスケープだった。
 特に読みたいものはないけど、昔読んでいた漫画の単行本を二、三冊持ってきて開いた。
 ああ、昔は良かったそんな思いがしただけで、すぐにあきてしまった。
 店の中は仕切りがあるもののたばこ臭くて、それをごまかす様に、薄くてあんまり味がしないアイスティーを飲んだ。
 わたしはたばこの匂いが大嫌いなのだ。
 それに椅子もウレタンがへたっていて、座り心地は良くなかった。
 何だか寂しい気持ちになりながら、備え付けのパソコンのマウスに触れる。
 インターネットで検索するキーワードは自殺。
 エンターキーを押すと途端に、自殺を防止するだとか、自殺の方法だとか、ありとあらゆる自殺関連の記事が溢れ出した。
 わたしにはどれも同じに見えた。心が晴れるはずもなくこれ以上落ち込みようもなく、ただひたすら虚しく感じた。
 時折感じる人いきれ。どれもが無言に近くて、やるせなさを覚える。
 どこにでもある漫画喫茶、何十個もある個室の中の一つ、わたしは初めて思った。わたしはいま孤独なんだと。
 何かこみ上げてきて、目尻から涙がこぼれだした。
 たくさん人はいるのに誰も助けてくれない。
 わたしは嗚咽を堪えながら、しばらく涙を流していた。

「どうして学校に行かなかったの?」
 家に帰ってみるとエスケープはばれていた。どうやら学校から連絡がいったらしい。
 さっそくお母さんに聞かれたけど、理由なんか言えるはずがなかった。
 何か妙だった。
 てっきりばれたら、怒られるんだと思ったけど、お母さんはなぜか穏やかな表情をしていた。
 取りあえず適当な言葉を返してみよう。
「ただ、行きたくなかったから……」
「たばこ臭くなるまでして、行きたくなかったの?」
「……うん」
 制服に着替えて帰ってきたけど、たばこの匂いは身体にもついていたようだ。我ながらマヌケだ。
「そうなの」
 『ふーん』みたいな感じで、こんどは笑顔を見せるお母さん。
 何だか居心地が悪くて、わたしは自分の部屋に入ろうとドアノブに手をかけた。
「家族なんだから何か悩んでるんなら、お父さんかお母さんに相談してね」
「……っ」
 背中にかけられた言葉に、思わずハッとして部屋に入った。
 ドアにもたれかかって考えた。
 今まで一度でもあっただろうか。
 いや……ない。
 わたしは今まで誰かに、何か困ったことを相談したことはなかった。いつも自分一人で何とかしなければ、いけないんだと思っていた。
 自分のことは自分で、耐えなければいけないんだと思っていた。
 でもいいの? 時には誰かに甘えてもいいの?
 そんなの許されるのかな……。

 翌日わたしは何となく気分が悪くて、また学校を休んだ。
 今度はちゃんとお母さんに話した。
 お昼前ベッドから降りて、着替えるとリビングへ行った。
 お母さんはソファに座って何も言わず私を見ていた。
 わたしはいつもの行動を始める。
 バルコニーへ出るとさっそく冷たい風が、わたしの身体に叩きつけるように吹き付けてきた。前より一段と寒い気がする。
 わたしは下を見てため息をついては、リビングに戻りそしてまたバルコニーへ出る。それを延々と繰り返した。
 自分自身、いまの行動が奇行だとは認識していた。
 当然だ。リビングとバルコニーを規則正しく往復するなんて、誰が見たって奇怪だ。
 けれどお母さんは
「なるほどそうすると落ち着くのね」
 なんて言いながら、ニコニコして私を見つめている。
 昨日の事といいどういうことだろう。
 一歩間違えば自分の娘が目の前で手すりを、乗り越えるかもしれないのに。
 別にわたしなんかどうでもいいから黙ってるの? それとも信じているから黙っているの?
 それならわたしは。
「……っ!」
 初めて手すりに足をかけようかと思ったとき、わたしは息を飲んだ。
 死にたいんだと思っていたはずなのに、なぜかこの手すりを乗り越えることができない自分に気づいた。
 怖い。
 わたしは怖いんだ、死ぬのが怖いんだ。激痛が恐ろしいんだ。
 わかってはいたけど結局はこれだ。本当に最低な人間だと思う。前にも後ろに進めず、何も決断できないのだから。
 もうどうすればいいの……。
 わたしはリビングに戻って、力尽きるように両膝を突いた。
 お母さんの変わらぬ笑顔が胸をしめつけ、目頭が熱くなった。まもなく一気にこみ上げてきて、わたしは声を上げて泣いた。
 もう我慢できなかった。
 ごめんなさい! ごめんなさい! 許して! みんな許して!
 泣きながら心の中で叫んだ。
 みんなを裏切り続けた自分が、なさけなくて申し訳なくて、涙が溢れた。
 なのに冷えたわたしを抱きしめるお母さん。
「ちょっと一休みしてココアでも飲もうか?」
 小さな子供に語りかけるように、お母さんは優しくそう言った。
 わたしはただただ子供のように、お母さんの胸で泣き続けた。そしてひとしきり泣いたあと小さく頷いた。
 
リビングとバルコニーを往復するのをやめて、ベッドに座っていると、四時頃インターホンが鳴った。
「真由、お客さんがきたわよ」
 そうお母さんの声が聞こえると、間もなくわたしの部屋のドアが開いた。
「よっ、何だ元気そうじゃん」
 知子だった。ふざけて軽く敬礼している。
「えっ、あっ」 
泣いていたあとなんてもうなくなっているはずけど、わたしは恥ずかしくなって上手く言葉が出てこなかった。
 制服姿の知子が、腕を組んでわたしを見下ろす。
「二日も連続で休むし、最近なんか暗かったから、どうしちゃったのかと思ったわよ。でも思ったより元気そうでよかった。あははっ」
 けらけらと笑いながら言う知子。くしゃくしゃになるくらい頭を撫でてきた。
 知子なりに気を遣ってくれていることが、心身と伝わってくる。
 口にはしないけど、だいたい検討はついてるんだろう。わたしに何があったかを。
「知子、部活は大丈夫なの?」
「真由のために体調不良により今日は休み!」
 元気いっぱいに言う知子を見て、わたしは思わずぷっと吹き出してしまった。
 いかにも知子らしいなと思った。
「さてさてそんなことより、これを見てちょうだいな」
 ガラステーブルの上に白い箱が置かれた。
「えっ、なに?」
「駅前に新しくできたケーキ屋さん、けっこう評判いいらしいのよ。んで、ちょっと並んで買ってきたんだけど」
「ほんと?」
「わーいほら」
 知子が嬉しそうに箱開けると、中から色鮮やかで食欲をそそるいちごタルトが顔を出した。
 特に苺は瑞々しくて艶があり、まるで摘み立てのようだった。
 ほかにレアチーズケーキも入っていた。
「すごい美味しそうだね」
「そうでしょそうでしょ、あたしの目に狂いはないはずよ」
 知子は自慢げに胸を張る。
 わたしは紅茶を入れた。
「んで、どっちにする? あ、真由なら……」
 いつものように考える知子。そのときわたしの口が自然と動いた。
「わたしいちごタルトにする」
「ええっ! 今日はどうしたのよ? ずいぶんはっきり言うわね」
「だめ?」
「んーもーあたしも狙ってたんだけど、今日は真由に一本取られた感じ。いいわよ」
 自分でも不思議だった、なにか肩から荷物がおりて楽になった気がしていた。
「あー美味しい、やっぱりこれは並んだかいがあったわ」
 レアチーズケーキに感嘆の声を上げる知子。
 わたしはいちごタルトを食べながら思っていた。
 だんだん楽しかった頃のレベルにもどっていく。今までのように悩み苦しんでいたときじゃなくて、普通に楽しかった頃に。
 どうしてだろうか。今まで張り詰めていたのにどうして?
 知子を見て思った。それはたぶん一人じゃないからだろう。
 わたしにはお父さんとお母さんがいる知子もいる。何か困れば相談だってできるんだ。
 わたしは孤独じゃないんだ。
 わたしの知ってる誰かから励まされれば、わたしはまた少しだけ頑張れると思う。だからもう少しだけ生きてみようかな……。
 知子が悪戯っぽい目をして、わたしのおでこを指で突っついた。
「ちょっとどうなのよ。いちごタルトのお味は?」
「おいしいよ……おいしいよとっても」
 そう笑顔で答えると、色々思い出しちゃって、ぐっときた。でも堪えた。
 せっかく知子が来てくれたんだからもう泣かない。
 ただこれだけは言いたい
 みんなありがとうと。

 わたしは久しぶりにバルコニーへ出た。相変わらず吹き付ける風は冷たい、もう十二月に入っている。
 手すりに寄りかかったわたしの視線。以前のように下ではなくもっと上、空を見上げていた。
 わたしを支えてくれる人たちのためにも、また一歩また一日、未来に向かって歩んで行こう。十二月の空に向かってわたしはそう誓っていた。
2008. 12. 03  
メインのPCが故障したので古いPCを使ってます。ちょっと反応が遅くて不便ですが、まあまあ行けそうです。
プロフィール

優妃崎章人

Author:優妃崎章人
■PNなど■
商業PN・優妃崎章人(ゆいざきあきひと)
同人PN・松永佳宏 (まつながよしひろ)
フリーシナリオライター・小説家
北海道旭川市在住

■仕事歴・小説などの出版物、著書■
パラダイム出版様より出版。アトリエさくら様原作『通勤痴漢電車アキバ行き』~女子校生に這い寄る無数の手~ ノベライズを担当

パラダイム出版様より出版。Softhouse-Seal様原作『魔物っ娘ふぁんたじ~』ノベライズを担当

パラダイム出版様より出版。May-Be SOFT様原作『へんしーん!!! ~パンツになってクンクンペロペロ~』ノベライズを担当

パラダイム出版様より出版。アイルチームドレイク様原作『恥感~少女は悦楽行きの電車に乗って~』ノベライズを担当

■仕事歴・シナリオ・企画など■
フレイルソフト様にて『隣の席のギャルピッチ』~僕は彼女のセックスフレンド!? シナリオを担当させていただきました。
http://www.frailsoft.com/

WHITESOFT様にて『さくらシンクロニシティ』
シナリオの一部を担当させていただきました。
http://white-soft.jp/

ANIM様にて『もしも用務員のおじさんが催眠を覚えたら…』
シナリオの一部を担当させていただきました。
http://www.hs-crowd.co.jp/anim/a_top.html

同人サークル・ソーラレイ様にて『オジサン泊めて 家出ギャルとのWINWINセックスライフ』シナリオ全て担当
http://www.solarray.jp/

アイル様にて『売淫令嬢~周芳院櫻子の罪穢~』シナリオ一部担当
http://www.ail-soft.com

サークルかぐら堂様にて『妹のオモチャにされてしまう僕』プロット作成・メインシナリオ担当
http://kagurado.net/top.html

アイル様にて『魔ヲ受胎セシ処女(おとめ)ノ苦悦2』シナリオ一部担当
http://www.ail-soft.com/

Norn様Mielにて『人妻柚希さんの筆おろしレッスン』シナリオ全て担当・演出指定
http://www.miel-soft.com/hitoduma/hitoduma_index.html 

HINA SOFT桃雛様にて『ママの運動会シナリオ一部担当』
http://www.hina-soft.com/ 

株式会社ネクストン・liquid様にて『催眠陵辱学園シナリオ一部担当』
http://www.tactics.ne.jp/~liquid/saimin/index.htm 

株式会社キューマックス・mini-mam様にて『女将静香』シナリオ一部担当
http://www.qmax.co.nz/mini-mam/okami/okami_top.html 

株式会社シュピール・ラブジュース様にて『辱アナ』
(企画書作成・キャラ設定・作画指定書作成・プロット作成・フローチャート作成・全シナリオ{全キャラ全シーン。テキスト量約1MB}を担当
http://www.love-juice.jp/product/ana/new_ana.htm

有限会社マリゴールド・アンダームーン様にて『D-spray』(子安愛、エッチシーン3つを担当しました)
http://www.marigold.co.jp/undermoon/OL/index.html

有限会社マリゴールド・ルネ様にて『女優菜々子』(メインライターとして、全キャラクターのメインシナリオと、調教パートの一部を担当しました。全体の七割半、テキスト量にして750KBほど)
http://marigold.kululu.net/lune/nanako/index.html 

その他、メーカー様のご都合により、公開できないお仕事歴有り。

■同人歴■ 
サークルくまくまかふぇ 同人ソフト・『ツインずテ~ル』企画・原作・全シナリオ担当・フローチャート作成
http://kuma2cafe.rejec.net/blog/

サークルくまくまかふぇ 『蛙の鳴き声』(企画・原作・全シナリオ担当)

■お仕事依頼など■
ゲームソフト企画制作及び、シナリオ執筆業務。小説執筆、その他企画制作など、承っております。サンプル作品などご希望の場合は、下記アドレスまで、お気軽にご連絡下さい。恐れ入りますが、全角の部分を半角に打ち直して、ご送信下さい。宜しくお願い申し上げます。

KIRIKO27@hotmail.co.jp

■お打ち合わせなど■
全国どこへでも、赴くことが可能でございます。こちらについても、お気軽にご相談下さいませ。

■著書・小説などの書籍■








■シナリオや企画を担当したゲームソフトなど■
『隣の席のギャルビッチ ~僕は彼女のセックスフレンド!?~』 ダウンロード:2016年04月15日(金) 発売予定!
























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